Japanese Names Have Flipped

公用文等における日本人の姓名のローマ字表記について

グローバル社会の進展に伴い,人類の持つ言語や文化の多様性を人類全体が意識し,生かしていくことがますます重要となっており,このような観点から,日本人の姓名のローマ字表記については,「姓―名」という日本の伝統に即した表記としていくことが大切である。

したがって,今後,各府省庁が作成する公用文等において,日本人の姓名をローマ字表記する際は,原則として「姓―名」の順で表記することとし,下記のとおり取り扱うこととする。

なお,本件の対応に当たりシステムの改修を要するなど,特別の事情がある場合は,当分の間これによらなくてもよい。

1. 各府省庁が作成する公用文等における日本人の姓名のローマ字表記については,差し支えのない限り「姓―名」の順を用いることとする。

2. 各府省庁が作成する公用文等のうち,次のものを対象とする。なお,国際機関等により指定された様式があるなど,特段の慣行がある場合は,これによらなくてもよい。

3. 各府省庁が作成する公用文等において日本人の姓名をローマ字表記する際に,姓と名を明確に区別させる必要がある場合には,姓を全て大文字とし(YAMADA Haruo),「姓―名」の構造を示すこととする。

4. 地方公共団体,関係機関等,民間に対しては,日本人の姓名のローマ字表記については,差し支えのない限り「姓―名」の順を用いるよう,配慮を要請するものとする。

5. 上記の内容は,令和2年1月1日から実施するものとする。ただし,各府省庁において対応可能なものについては,実施日前から実施することができる。


日本人の姓名を英語圏などでローマ字表記する場合、従来は「名+姓」の順番だったのを、「姓+名」に変えるという動きがあります。これは、2000年に国語審議会が答申したものですが、今回、柴山昌彦文部科学大臣や河野太郎外務大臣が、あらためて推進するとしているようです。

理由としては、文化や言語の多様性を尊重、つまり英語圏においてアジアの文化はもっと独自性を発揮すべきということだそうです。この問題、基本的には個々人の自由であり、強制力を持つ話ではないので、賛成も反対もないわけですが、個人的にはあまり気が進まないのは事実です。

まず考えていただきたいのは、中国や韓国に追随する必要があるのかという点です。河野外務大臣が、記者会見で「習近平国家主席がシー・チーピンとかムン大統領がムン・ジェインという風に表記する外国の報道機関が多いわけで、安倍晋三も同様にアベ・シンゾーと表記してもらうことが望ましい」と述べているように、確かに中国や韓国は、英語圏での氏名の表記を「姓+名」にするように要請し、かなり対応してもらっています。

ですが、これをそのまま日本に適用するのは無理があります。中国語も、韓国語も姓は漢字1字が多く音も単純ですが、名は漢字2文字が多く複雑です。「鄧小平は鄧・小平」であり、姓の「ダン」は覚えやすいですが、名の「シャオピン」は発音として複雑です。「金・大中」も「キム」は音として把握しやすいですが、名の「デジュン」は、外国人には馴染みのない音になります。

ですから、中国や韓国の名前の場合は「簡単な音の姓」が先で、「特殊な音に感じられる名」は後という順番にするのは、比較的自然です。

ところが、日本語の名前の場合は、最高で一つの子音に一つの母音が付随するだけの単純さ、また姓より名のバリエーションが特に多いわけでもない特質から、英語圏でもファーストネームを比較的覚えてもらえるという特徴があります。また、同じ理由から、過酷な差別を受けた世代や、二世、三世を除いては、ファーストネームを英語名にする人は中国系よりは少なめです。

同じアジア人として「英語圏カルチャーに対して独自性を主張」という気持ちは分からないではないものの、言語の構造が違うということはふまえた方がいいと思います。

さらに言えば、「姓+名」という順番にしていることもあって、日本人のファーストネームは、アメリカの場合、かなり親しみを持たれているということがあります。「イチロー・スズキ」「ヒデキ・マツイ」「ケン・ワタナベ」というような名前は、アメリカ人では知らない人はいないほどの知名度を誇っています。「ジョン」とか「マイク」というような英語風の名前にしていないにも関わらず、ちゃんと覚えてもらっているわけです。

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伴う:ともなう>>ともない
即する:そくする>>そくした (to conform to)
各府省庁:かくふしょうちょう
原則:げんそく
当分:とうぶん (for the time being)
拠る:よる>>よらなくてもよい
特段:とくだん
慣行:かんこう
用いる:もちいる (to make use of)
要請:ようせい (request; application)
把握:はあく
付随:ふずい
追随:ついずい
バリエーション:variation
英語圏:えいごけん
個々人:ここじん
特徴:とくちょう
過酷:かこく
差別:さべつ (discrimination)
踏まえる:ふまえる>>ふまえた (based on)
誇る:ほこる>>ほこって


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